==== チェッ ====



都会の雑踏の中。
走ってきた少年がつまずいたようにサラリーマン風の男とぶつかる。
ウーーと苦しがる二人。
「ど、どうも」「すみません」
「君、だめじゃないか。痛ッーーー」
「ほんとうに すみません」
怪我もなくそれはその場で収まったようだ。
少年は求人広告をみて運送屋で運転助手として働き始める。
運転中には与太話をし、社長の無理をきき、同僚と銭湯でくつろぐ。
下町の家庭的な会社でそれなりにそつなく仕事をこなす少年。
夜。再び繁華街の雑踏。
人ごみの中の孤独、漠とした不安。
そして自分の存在を確認するように少年は再び体当りを繰り返す。
しかしその夜のその男は違った。すべての接触を拒絶する。
男の後を追ける少年。
ひと気の無い所で男にナイフを振りかざすが、それでも男は表情を変えない。
戸惑う少年は薄ら笑いをうかべ逃げ去るしかなかった。

*

少年は特に人付き合いが苦手なわけではない。
ただ、その心の底にある不安や焦燥は誰にも解らない。
下町的な近しい仕事の付き合いに多くのページを費やしているのに
彼がどこに住んでどんな生活をしているのかは全く説明されない。
そしてその日常的な描写を挟むような構成で描かれる奇怪な行動は
作者自身の不安の表出でもあったはずだ。
存在感が希薄になり消えていくような不安。
これは後に「あらさのさぁー」で、より明確な形で結実することになる。


■ ガロ 1969年 7月号掲載 全24頁



リストへ戻る