==== ゴセの流れ ====




ジンは病の母と姉の三人暮らし。
家計を助けるために
幼いながら荷物運びなどをして駄賃を稼ぐ感心な子である。
しかし母には死期が迫っていた。
医者は迷った末
歳の割にはしっかりしている姉のハルにそれを打ち明ける。
姉は知り合いのおばさんに相談するが、ジンはその会話を聞いてしまう。
死の意味を理解しようとする幼いジン。
それからジンは母を助けないばかりか
悪さを繰り返すようになる。
苛立つ幼い姉。
ある夜、母が苦しみだす。
医者を呼びに行こうとする姉を止めて母は言う
「もうだめかもしれない」
「たすかる、たすかる」と念じながら飛び出していく姉。
しかしジンは苦しむ母に刀で切りつけるのだった。
(以下伏字)
瀕死の母にジンは言う
「お母ちゃん うんと うんと うんと おいらを怨んでくれ」
「おいら うんと悪い奴だ!」
「(略)」
「だから 怨んで ゆうれいになって出てきて!」
すべてを察した母は
必ず幽霊になって戻ると約束して死んでゆく。
長じてジンが愛した女性は母に似ていたと言う。

*

幼い子供が母親を切り殺す、もしくは殺そうとする。
その部分だけを三面記事的に取り出せば
非常に衝撃的で残虐な話であるが
衝撃的であればあるほど
逆に作者自身の優しさが読者の胸に響いてくる。
そして死の意味の重さを、生きることの重さを
死と対峙してきた楠勝平だからこそ描き切れたのだと思う。

個人的には楠勝平の最高傑作としたい。


■ 長編コミック傑作集 1971年12月15日号掲載 全31頁




リストへ戻る