==== どろ棒とこん棒 ====




ひっそりと眠りについた江戸の町。
とある商家の丁稚が厠(かわや)の中ではっと目を覚ます。
器用なことに立ったまま寝ていたのだ(笑)。
ぼーっとしたまま布団に戻ると隣りの部屋から声が聞こえる。
襖の隙から覗くと泥棒が家人を縛り上げて「金をだせ」と脅していたのだった。
縛られた主人に目配せをして隣りの部屋でこん棒を振り上げ、泥棒を待ち構える丁稚。
が、ここでふと疑問が脳裏をよぎる。
「どのくらいに打てば気をうしなうのだろう・・・」
樫の棒だから強すぎれば殺してしまうし、弱くても・・・
などと考えているうちに、いざ振り下ろした手がピタッと止まってしまう。
主人に殴られ店を放り出される丁稚。
(↓以下ネタバレのため伏字。)
「奴・・・、命乞いをしおったが。」
偶然通りかかった武士が泥棒をずたずたに切り殺し
店は難を逃れたのだった。
照りつける日の下をとぼとぼと生家に帰る丁稚。
「旦那が怒るのも無理ないなぁ」

*

小心者の悲劇を落語風のギャグで描いた味のある作品。
オチへ持っていく場面転換が実に上手い。
登場人物は如何にもといった泥棒、強欲で慇懃な商人
情け容赦の無い武士と、多分に意図して類型化してあり
非情な武士と間抜けな丁稚を対比しているが
ここでも作者の目はあくまで愛すべき庶民に向いている。


■ ガロ 1967年 7月号掲載 全13頁




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