==== 茎 ====


 


染物師になることを夢見る'つむぎ'は、つてを頼って染物屋に奉公する。
お嫁さんになるのが少女達のゆめであった時代
職人の世界は男社会で、少女が弟子入りするのには職人達にも抵抗があった。
しかし、辛い下働きにもめげずに頑張り
別の店で同じように染物師を目指す娘、民江とも友達になって
共に励まし合いながら修行に励むのだった。
そんな中、花火の夜、つむぎはふとした切っ掛けで少々おっちょこちょいだが一本気の
絵に書いたような江戸っ子と知り合う。

月日は流れつむぎも少女から大人の女性に成長していた。
染めの腕も上げていたが、親方はつむぎの筋の良さは認めながらも
これ以上女であるつむぎを仕込むのに抵抗を感じていた。
あの手は(布を染める手ではなく)子供を抱いたり洗濯をしたり
朝晩の飯を作る手だというのだ。
つむぎは結婚はせず染物師になる決意だったが
ある時、民江が仕事をやめて結婚するのを告げられ迷いが生ずる。
愛し合う仲になっていた男の顔が頭をよぎる。
しかし、男からは当然のように結婚して家庭に入ることを求められ
暗澹とするつむぎ。
いっそ夢など諦めてしまおうか。
そして後日、
悲しみを胸に秘めて一人で生きていくつむぎの姿があった。

*

まだまだ女性の社会進出が進まない当時
女性も社会に出て働くべきだというのは楠の持論であったらしい。
そこで待ち構える困難や無理解は今日でも色あせないテーマである。
楠作品では珍しく社会的テーマを扱っているが
ほんの脇役まで、登場人物一人ひとりの生きかたまで見えてくるほど
生き生きと描かれているので、観念的でない説得力を持つ。
「おせん」と並ぶ代表作のひとつだが
貧しさという境遇の中で力強く生きるおせんに対しつむぎは
豊かではないにせよ、より自立し、主体的に生きる強さがある。


■ ガロ 1967年 9-10月号掲載 全51頁




リストへ戻る