==== 名刀 ====




火事で宿が焼け、雨宿りの為あばら家に集まった旅人達。
よもやま話に興じる人々の中に一振りの名刀を届けるため江戸へ下る武士がいた。
町人の求めに威厳を保って刀の由来を講釈する武士。
しかし一人の若者がいきなり笑いだす。
「俺の持ってる方がよく斬れらぁ」
周りの人たちが慌ててとりなすが若者は頑として謝らない。
武士は面目を潰され、見せろと迫るが
若者は「見せもんじゃねえ」と突っぱねる。
と、若者を一刀に斬り捨てる武士。
若者の風呂敷包みから出てきたのは研ぎ澄まされた一丁の鉋(かんな)だった。

*

支配階級である武士のプライドと職人のプライドの衝突を描いた佳作。
自分の持っている名刀を見せびらかしたくてしょうがないのに
威厳を崩さず、もったい振る侍の描写が秀逸。
刀という非生産的な道具と鉋という家屋敷を作る道具を対比させ
若き作者の庶民への深い愛情を感じさせる。


■ ガロ 1966年 10月号掲載 全17頁




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