==== 冷たい涙 ====




湯沢の7年来の親友が急死した。
故人の元に駆けつけた友人、上司、そしてその父親。
あまりに急な死に、悲嘆にくれて涙を流す人々。
そんな中、神妙な面持ちながらひとり湯沢は醒めていた。
「とくにおぬしらは仲が良かったからのう。」
そう言う友人の言葉に思い出を語る湯沢。
その話を聞いて人々は更に涙にくれる。
帰宅の途でも何故か悲しい気持ちにはならない。
そして家に帰り着き、一人になったとき
涙があふれ、初めて号泣する。
それを聞いた両親は
「無理もない。無二の親友だったからな...」
しかしそれは
「七年来の友人が亡くなったのに涙一滴流れぬとは」
「おれという男は なんと非人間的なのだ」
という欺瞞と自己憐憫の涙だった。

*

主人公の湯沢はなんと傲慢な男だろう。
そう思いながら一抹の後ろめたさを覚えるのは私だけではないと思う。
読者の心の欺瞞まで突いてくる鋭い切り口の一編。

■ ガロ 1967年 5月号掲載 全12頁




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