==== 臨時ニュース ====




春。
印刷所に勤める吉沢には就職したばかりの娘と小学生の息子があった。
父子家庭のようであるが慎ましやかなごく普通の家庭である。
ある日娘が交通事故にあい、一命は取り留めるが足に後遺症が残ると伝えられる。
加害者のタクシー運転手に対する怒りをぐっと抑える吉沢。
示談交渉でも詫びの言葉はどこか浮ついて弁護士に頼る姿に釈然としない。
季節は流れ以前の平穏な生活が戻った夏
吉沢は帰宅ラッシュの電車の中で加害者の運転手を見掛け
衝動的にその後を追い、運転手の自宅の前までたどり着く。
そこには運転手の普通の生活があった。
(虚しさと後をつけたと言う気恥ずかしさに襲われる吉沢。)
更に季節は流れ秋。
犬の散歩をする吉沢と連れ立ってギターのレッスンに向かう娘の姿が有った。
娘は足に障害が残り、幸せそうな表情の吉沢の心の底には
向けどころが無い澱のような怒りと不安が残った。

*

この作品は読む側の感性にゆだねた表現が多く
ある意味難解な印象を与える。
だから上記のプロット(特に後半)は私の解釈と思って頂きたい。
しかし、意味もなく唸り声を発する犬とか
唐突にラジオから流れる衝撃的なニュースは
心理描写と読めば特に難解な作品ではないと思う。


■ ガロ 1968年 5月号掲載 全34頁



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