==== 彩雪に舞う・・・・ ====


 


幼い少年、左衛門は祖母と二人暮し。
ある晩高熱を出して以来、寝たきりの生活を送っている。
腹部に腫瘍ができたらしい。
友達と遊べない少年には庭に来る鳥が友達となる。
チュンチュンとさえずる鳥たちの会話に一人微笑む少年。
暑い夏。腫瘍は広がり始め、食欲も無くなっていく。
ある晩、寝汗をかいて着替えているとき、外で人の気配がする。
実は隣に住む老人がこっそり庭に豆を蒔いて鳥を呼び寄せていたのだ。
それは少年も祖母も知らない。
やがて秋。木の葉も落ちつくした頃
一羽の鳥が別れの挨拶に訪れる。
「つつじが芽をだしたらまたくるよ」
「冬がくると 葉は枯れ 土に戻り 鳥は空にかえるんだよ...」

「空に舞うひけつをおしえよう」
「いいかい 雪が降ったとき」
「羽を持ち ジーっと雪を見つめて 降ってくる雪をとめるんだよ」
「すると からだがかるくなるんだよ...」

そして冬
少年は彩雪の中を空へ昇っていくのだった。

*

死の床で「もっと生きたい」と願った楠勝平が
その一年前に書き上げた最期の傑作。
多くの作品で顔を出す死への不安や恐れは
この作品では、あくまで叙情的で象徴的な表現に昇華され
暗い作品なのにある種の晴れやかささえ漂う。

デビュー以来得意としてきた市井の人々の生活描写と
晩年、傾倒していったファンタジー的要素が絶妙に溶け合って
独特の雰囲気を醸しだす。


■ ガロ 1973年 3月号掲載 全28頁




リストへ戻る