==== 参加 ====


 


東京女子医大病院に入院する栄二の手術の日取りが決まる。
双房弁狭窄症という病気で成功率は50%。
父は願をかけて煙草を絶ち、母は二年間、週に一度神社への参拝を誓う。
念願かなって手術は成功し、栄二は無事退院して元の生活が戻ってくる。
父は刑(しおき)がとれたとして再び煙草を吸い始め
母も週に一度のお参りも滞りがちになった頃
栄二は突然の交通事故で死んでしまう。
自分の怠惰を責める母。
それは栄二の死と無関係であると慰める父。
その沈んだ表情は栄二の幼い妹に毒だと遊園地に出かけるが
母の気はどこか晴れない。
そして父は繁華街で酔い潰れるのであった。

*

栄二は作者自身の投影である。
僧帽弁狭窄症(”双房弁”は楠の勘違いであろう。)は心臓弁膜症の一種で
まさに楠の命を奪った病気であり、最期に入院したのも東京女子医大病院である。
この作品以前にも殆んどの作品で人の死が扱われているが
自身の死を意識した作品はない。
以後、「大部屋」「あらさのさぁ」へと続くターニングポイントになる作品である。
とは言えここではまだ病気で死ぬという実感は無く、
死はいつか突然やって来るといった認識である。
死を意識しながらも何時どんな状況で死ぬかもしれないのにくよくよしてもしょうがない。
そう自分に言い聞かせていたのかもしれない。
むしろ楠の興味の中心は自分が突然居なくなった後の家族の悲しみに向けられている。
この後の楠勝平の運命を知った今、改めて読み返すと
その優しさに涙する。


■ ガロ 1967年 6月号掲載 全25頁



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