==== 石匠 ====

(原作:冬木良)



雪が積もって交通がマヒした街。
一人の男が彫刻家、紫摩子の元を訪れる。
男は画商の様である。
紫摩子は下宿の主である老人の看病に手一杯で制作が出来ないでいた。
なぜ何の血縁でもない老人の看病に時間を割くのか
なぜ賞を受けるのを断るのかを尋ねる男。
彼女は自分自身の気持ちを整理できないでいたが
老人が臨終を迎えたとき
山から石を届けに来る黒牛と呼ばれる青年を愛している事を告白する。
身寄りの無い老人の葬儀を済ませると
作品を画商の男に預け下宿を引き払う。
そこには10個の大きな石の玉があった。
自室で石を刻む男。
そして男が石切り場を訪ねると
黒牛と楽しそうに戯れる紫摩子がいた。

*

画商の男の感情の描写が一切されないことが
この作品を必要以上に難解なものにしている。
前年に発表した「蛸」の中で
楠は「10個の玉」を「叶わぬ思いの象徴」として描いている。
とすれば、画商は紫摩子に思いを寄せていたことになる。
作中では多少紫摩子を思いやる言葉はあるものの
あくまでビジネスライクな接し方をしている。
静謐な描写の中に男の思いを描いた作品といえる。
あくまで私の解釈だが。


■ ガロ 1969年 10月号掲載 全36頁



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