==== 殿様とざらざらした味 ====




とある殿様が怪我が元で生死の狭間をさまよい
医者に飲食を止められ乾きに苦しむ。
何とか峠を越えて飲んだ水の美味かったこと。
そして怪我が回復した後も殿様は美味い水に執着するようになり
各地から名水を取寄せて飲んでみるがあの時の味には及ばない。
食事を抜いたり季節を待ったりしても望む味ではなかった。
あの時は怪我をしていた。同じ状況ならどうだろう。
刀の手入れ中にうっかりしたふうを装って傷を負ってみた。
しかし、この傷が元で殿様は死に至る事になる。
その刹那飲んだ末期の水は美味いどころか
闘病で舌や口の中が荒れて砂利を飲んでいるようだった。

*

庶民には限りなく温かい目を向ける楠勝平だが
有閑階級には厳しいアイロニーをぶつけるのであった。


■ ガロ 1967年 1月号掲載 全19頁



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