==== 大部屋 ====




夏。心研第二病棟の6人部屋。
木造(?)2階建ての、クーラーも無い古い建物である。
入院しているのは一人の少年と、少年が兄貴と呼ぶ平尾
物静かな小井出、妻子持ちで、おとうちゃんと呼ばれる年かさの男
そして眼鏡をかけたサラリーマン風の男。

少年と平尾の心臓手術の日取が9月1日に決まった。
冗談を言って笑っているが、どこか不安も抱えている。
そこへ新たに塚上が入院してきて
同じ病気を抱えた患者たちの入院生活が生き々々と描かれていく。

二人は手術の日を迎える。
少年の両親は看護婦に心付けを渡しているが
平尾の義母は手術の途中で九州に帰ってしまったという。
術後、少年は順調に回復するが平尾は回復室へ戻されてしまう。
軍隊生活の苦い思い出を語るおとうちゃん。
母の勧めを断りきれず宗教に入信する小井出。
5日後、平尾は無言の退院をしていく。

季節は流れ秋。
おとうちゃんも退院し、平尾のベッドには別の患者が入っている。
少年も退院の目途がたち、塚上の手術も決まるが
些細な冗談から二人は諍いを起こしてしまう。

そして雪の降る冬の日の病棟。
患者は入れ代わってしまったが、病状が悪化し、
瀕死の小井出だけが同じベッドで点滴を受けていた。

*

作者の実体験を直接、基にした
参加」と同じ病棟を舞台にした作品。
今でこそ心臓弁膜症の手術の成功率は
ほぼ100%になっているらしいが
当時は、心臓の手術というだけで成功率の低い危険な賭けだった。
そんな状況の元、一期一会で同じ病棟に集った人たちの
日々の入院生活に留まらず、性格や人生の背景まで
短いページ数の中で的確に点描していく。
特に表面上は軽口や冗談を言い合って
楽しく集団生活を送っているように見える患者たちが時折垣間見せる
死と隣り合わせの不安は作者の実感とも言える。


■ ガロ 1970年 5月号掲載 全36頁

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