そんな妻の日常が淡々と描かれる。
安夫は徐々に大人になりつつあり、夫は頻繁に訪ねてくる角田と碁に興じる。
そんなある日、妻は坂道で足をくじいてしまう。
茶の間でうたた寝をしているところへ角田が尋ねてくるが
留守だと思い帰ってゆく。
その時、妻は夢を見ていたらしい。
その夜、夕食の支度をしているところへ再び角田が尋ねてくるが
妻は角田に熱湯の入ったヤカンを投げ付けて怪我をさせてしまう。
そして夫には角田が抱きついてきたのでヤカンを投げ付けたと言い訳する。
嫌気がさした角田は遠くへ引っ越していく。
夫は不眠症になった妻を気遣い、山の中の温泉へ湯治に行く。
そこで妻は角田がニコニコしながら夫や息子を連れて行って
一人だけ取り残される夢を見たことを告白する。
*
丹念に描かれた日常の中に潜む妻の不安な心理、疎外感を象徴的に描いている。
専業主婦と仕事を持って颯爽と働く女性との対比。
成長して手を離れていく子供。
空気のような夫との関係。
妻は本当に足をくじいたのか。
(これには読者に疑問を持たせる伏線がはってある)
そんな妻の心のひだまで描き出している。
そしてこの作品で一番秀逸なのが角田の造形。
常にニコニコと人の良さそうな、気の弱そうな顔の口には何故か牙が。
■ COM 1969年 8月号掲載 全37頁